公認会計士に税法科目の追加は必要ない。
日税連は、「公認会計士が税理士となる際に、税法に属する科目に合格すること」を求めています。日本公認会計士協会は、これはまったく検討するに値しないものとして、反対意見を発表しました。
公認会計士はもちろん、関係団体にその内容をご理解いただきたく、ここに日本公認会計士協会の反対意見を紹介します。
日本公認会計士協会の反対意見
日本税理士会連合会「税理士法改正に関する意見(案)」に対する意見
日本税理士会連合会が平成22年5月31日付けで取りまとめた「税理士法改正に関する意見(案)」(以下「意見(案)」という。)の「Ⅱ 改正要望項目 2.税理士の資格取得に関する規定 ⑴ 税理士の資格」において、「税理士となる資格を有する者は、税理士試験に合格した者を原則とする。弁護士・公認会計士(以下「隣接職種」という。)に対しては、能力担保措置として、 弁護士は会計学に属する科目に、公認会計士は税法に属する科目に合格することを原則とする。」との方向性のもと、税理士法第3条及び第8条の改正案を提案している。日本公認会計士協会(以下「協会」という。)は、この提案に下記の理由から反対する。
1、税務業務の位置づけと公認会計士がその担い手であることの相当性
公認会計士は、財務書類の監査証明業務を中核業務とする会計・監査の専門家である。税務業務は、会計領域と法的領域の接点にある実務であり、また、税務会計は会計領域の重要な一部分である。 したがって、公認会計士は当然に税務業務の担い手であると認識され、それ故に、公認会計士試験においては従来から租税に関する科目の受験が必須とされている。 また、諸外国の例を見ても、税理士制度を有しない多くの先進諸国にあっては、公認会計士及び弁護士が税務業務の担い手となっており、また、税理士制度を有しているドイツや韓国においても、 税務業務を公認会計士と弁護士の業務として、それぞれの資格者を規制する法律において規定されている。
これらのことは、公認会計士が当然に税務業務の担い手であると位置づけることの証左である。
意見(案)における提案は、税務業務の必然的な担い手に係る考え方及び国際的な趨勢に合致しないものであり、到底容認できない。
2、税理士法制定時の趣旨に基づき公認会計士が税務の専門家であることの適格性
昭和26年の税理士法制定に先立って発表された第2次シャウプ勧告では、「弁護士及び公認会計士は、現在及び将来を通じて、人物試験以外の試験を受けることなく、 税務当局に対して納税者の代理をなすことを、認められるであろう。彼等の専門的資格は、それぞれの専門的地位を得たことによって、一般的に証明済であるから、更に資格試験をすることは必要でない。 税の部面における特殊の経験はないかもしれないが、その専門的地位にあることによって、彼等は、納税者の有能な代理者として必要な知識をもつことになるであろうということが予想される。」と 明示されている。これを受け、税理士法制定の際の立法担当者の趣旨説明においても、「税理士となる資格を有する者としては、まず弁護士、公認会計士が適当であると考えられ、 これに加えて税理士試験に合格した者…」として、税理士試験合格者に先行して、公認会計士及び弁護士に税務における専門家としての適格性を認め、以来、その趣旨に則った制度運営がなされている。 意見(案)における提案は、こうした税理士法制定以来の立法趣旨に反するものであり、到底容認できない。
3、公認会計士が税務サービスを提供可能な専門家であるとの資質の確認とその資質向上のための継続的な研修の実施
税理士試験を合格した税理士は、合格した税法科目についてのみ税務サービスの提供が許されているわけではなく、すべての税務サービスを提供することができる。 これは、専門家としての資質が一定水準以上であることが試験により確認され、その後の研修や実務を積むことによって、国民の期待する税務サービスの提供が可能であると考えられているからである。
公認会計士及び弁護士は、同様な意味において専門家としての資質について制度的に確認済みである。すなわち、公認会計士については、公認会計士試験において必須試験科目として租税法を受験し、 また、公認会計士試験合格者は、監査法人等で監査実務の経験を積むとともに、協会が実施する実務補習において、相当な税務科目の研修を修了し、その成果が修了考査で確認されている。 さらに、公認会計士には、法律に基づき、年間40時間の継続的専門研修が義務づけられており、その中で、法人税等の租税科目を受講し、改正税制にも適切に対応してきている。
意見(案)では、公認会計士及び弁護士に税理士試験の税法又は会計の科目のうち1科目の合格を求めているが、このような能力担保措置を講ずることにより、 どのような効果を期待しているのは明らかにされていない。
国民が公認会計士及び弁護士に期待する税務サービスは、意見(案)で提案する能力担保措置による税法又は会計科目の合格科目に基づくサービスではなく、 公認会計士及び弁護士として培った専門知識、実務経験に基づく税務サービスである。
意見(案)における提案は、税理士制度創設以来提供されてきたこのようなサービスが、社会において受け入れられている実態を考慮したものではなく、到底容認できない。
4、隣接職種の資格者に対する能力担保措置を講ずる必然性
現行法のもとでの能力担保措置に弊害はない。法律改正を求めるのであれば、現行法のもとでの弊害の立証が必要かつ不可欠である。
意見(案)の「Ⅱ 改正要望項目 2.税理士の資格取得に関する規定 ⑴税理士の資格【理由】隣接職種の資格者等に対する能力担保措置」では、司法制度改革や監査の充実・強化の要請による 公認会計士制度改革が行われてきている一方で、税理士の資格取得制度については長年にわたり見直しが行われていないこと、並びに隣接職種の資格者が無条件で税理士資格を付与され税理士業務に 参画することが問題であるとしているが、税理士登録をした公認会計士が税理士業務を行ったことによる事故・事件が頻発している等の弊害を指摘しているわけではない。
上記1.乃至3.で述べたとおり、公認会計士は、税務業務の担い手としての相当性、適格性を有し、また、その資質の確認がなされている。 現行法のもとで弊害がなく、法律改正が国民の利便・利益に適わないにも関わらず、能力担保措置が講じられているこうした隣接職種の資格者に新たな障壁を設け、 競争を制限しようとする提案は、到底容認できない。
5、公認会計士が税務サービスを提供することによる国民のニーズへの対応
国民の望む税務サービスの内容は多種多様であり、その内容にしたがい適切な報酬のもとで幅広く提供されることが望まれ、税務サービスが現在よりも制限されるのであれば、国民の利便性は低下する。
公認会計士及び弁護士は、それぞれの専門分野を生かして多種多様な税務サービスを提供することが可能であり、彼らのバックグラウンドを活かした税務サービスは、国民のニーズに応えるものである。 したがって、両者の税務サービスの提供に制限を課すことは国民の視点に立つものではない。
意見(案)冒頭の「◇本意見(案)の取りまとめの経緯について」に記載されている「法律の改正を議論する際には、国民の利便、利益、安全等に適うものであること等、 あくまで国民・納税者の目線に適った議論が行われることが肝要である。」とする主張と相容れない意見(案)における提案は、到底容認できない。
税理士法改正問題に関する日本公認会計士協会の考え方
1. 税理士法改正提案の必然性・必要性がない- 日本税理士会連合会の隣接職種の資格者(弁護士、公認会計士)への能力担保措置提案は、現行制度のもとでまったく弊害がないことに対する法律改正要望である。
- すなわち、税理士登録をした公認会計士が税理士業務を行ったことによる事故・事件は頻発していない。
- 隣接職種の資格者に新たな障壁を設け、競争を制限しようとする提案は、業際問題を助長するだけで、提案理由がまったく理解できない。
2. 税理士法改正提案は国民経済に重大な支障を来たす
- 公認会計士は、多種多様化する税務サービスに対する国民ニーズに、その専門知識と公認会計士としての実務経験を活かし的確に対応してきている。
- 公認会計士は、税務サービスの中でも難しい分野(国際租税分野における事業体課税・移転価格税制・租税条約改定提案、連結納税、組織再編税制、リース税制など)で活躍し、 企業の成長や国際競争力の強化に貢献している。
- 公認会計士が税務の専門家であることが国際標準(税理士制度を有する先進国は我が国のほかドイツと韓国のみ)。 公認会計士資格取得者にさらに租税科目を受験させることは、我が国の公認会計士に税法の知識がないかのような誤解を与えるものであり、 その信頼性が揺らぎ、ひいては、我が国公認会計士監査の質が問われることになる。昭和26年の税理士法制定時に、公認会計士試験に税務に関する科目が追加されたことをもって既に対応済み。
3. 税理士制度、税務業務の本質に関わる議論が不十分
- 税理士は、税務代理権は有するが、課税権限はあくまでも課税庁が有し、税理士は税務手続代行者という側面がある。
- 税務代理権を誰に与えるかは課税権者の運用上の問題。
- 税理士法制定の経緯からみても、弁護士、公認会計士、税理士試験合格者、税務行政経験者は税務代理権を与えるに相応しいとの認識。
- 公認会計士、弁護士は制度的に専門家としての資質を確認済み。
- 現行税理士は、税理士試験に合格した税法科目にかかる税務サービスのみの提供が許されているわけではない。
4. 税務官公署等行政実務経験者の能力担保措置に言及していない